CC > re:CC

« 戯言 | メイン | 補遺:Celloのこと »

2009年3月 7日

Celloのこと

 久しぶりにこちらでオーディオのことを書こう。

 Cello(チェロ)というオーディオメーカーがあった。いや、実は今もある。しかし、その形態は以前のCelloとはまったく別といっていい。だから「あった」ということにしよう。
 
 Celloはマーク・レヴィンソンによって作られたメーカーだった。レヴィンソンは自らの名前を冠したメーカーを作ったはよいが、結局は、半ば追い出されるようにして、その会社を飛び出すことになった。そして、その名はブランド名となり、今も残っているが、人間としてのレヴィンソンとはほぼ無関係だ。レヴィンソンを飛び出したレヴィンソン(ややこしい話だ)は、トム・コランジェロというエンジニアを引き抜きいた。そして、彼とともに開発したオーディオ機器を発表したのがCelloというメーカーだった。

 どうもレヴィンソンという人物は、本人が天才的な設計者というわけではなく、むしろ優れた監修者に近い位置にあったようで、前述のコランジェロ、リチャード・バウエン、ジョン・カールといった優れた設計者とともにあって、すばらしいアンプを発表する、ということをしていた。私には、彼がデヴィッド・ボウイと似ているような気がしてならない。ボウイも、本人も、もちろん優れているのだけれど、時代の半歩先を行く人物、グラムだった頃はミック・ロンソン、ベルリン時代はブライアン・イーノ、レッツダンスのスティーヴィー・レイ・ヴォーンだとか、そういう人物を組み込んで自分の音楽を作り出すのが得意だった。もちろん、ボウイなしでは、今、残っているような音楽にはならなかっただろう。

 レヴィンソンにも同じことが言える。その証拠がVIOLAというメーカーの存在だ。Celloが経営的に行き詰った結果(それ以外の理由もあるのかもしれない)、レヴィンソンはまたしても会社を飛び出し、主要設計者であったコランジェロとポール・ジェイソンは別の会社を作って自分たちのアンプを発表する。そのメーカーがVIOLAだった。発表されたアンプは当然かもしれないが、Celloのアンプ群の設計思想に共通するものを持っていた。姿も大きさも似ていた。しかし、Celloを良しとするユーザからの評価は必ずしも良くない。やはり、レヴィンソンがいたからこそできた音があったということだろう。

 その後、レヴィンソンはアジアとの関係を深め、レッドローズ・ミュージックという会社を興し、中国で生産されたオーディオ機器をアレンジして(本当にアレンジしていたのか名前を貸していただけなのかはわからない)販売していたというが、あまり芳しい話はきかない。同社のWEBサイトを見ると社長兼CEOとして、その名があるから、今もその地位にはあるのかもしれない。その後、私が知っているのは、韓国のLG電子と組んで携帯電話やホームシアターシステムの監修をしたという話と、中国のレコードになぜか技術顧問として加わっていたりするということだけだ。欧米ではその名の威力が衰えたのでアジアで、ということなのでだろうか。また、当初、私は同姓同名の別人と思っていたのだが、結果的に元妻となった女優とともに、こんな本の著者にもなっている。
 
 そのCelloのアンプを私が導入するきっかけとなったのは、上述のVIOLAのパワーアンプ、FORTEでならされるスピーカーを聴いたことだった。音が好ましかったし、その小ささがさらに好まく、かわいらしく見えたのだ。そして、その頃から、試聴会などに通うようになって、顔見知りとなった某オーディオ店のA氏に「あのFORTEというパワーアンプはなかなか良いですね」と話したところ「あれよりも、あれの元ととなったCelloのencore power monoの方がよかったんだよ」と言われた。その場では、そう言われても聴く機会ないですものねぇ、そうだねぇ、などという会話が続いて、その話題は流れていった。
 
 数ヶ月後、A氏のところに行くと、ささやくようにして、こう言われた。

「Celloのmonoアンプ出るよ」

 当然、私は驚いた。聴けないと思っていたアンプが聴けること。もちろんそれには驚いたが、それ以上に、半年ぐらい前にサラリと話した内容を氏が覚えていたことに驚いた。
 
 とりあえず、モノが入ったら見せてください聴かせてください、そうお願いして、数日後、現物をパウエルアコースティックのスピーカーにつなげて聴かせてもらった。姿は単なる金属の箱。にもかかわらず、なにか可愛らしさと品の良さが感じられた。音もその小ささからは、想像できないしっかりしたものだった。

 しかし、すぐに買う決心はつかなかった。その時点で私は出力50Wの真空管パワーアンプを使っていた。次にパワーアンプを買えるとしたら、それ以上の出力のあるものと考えていた。その頃は出力数という値が、そう単純にあてになるものではないなんてことは知らなかった(後年、インピーダンス15Ω、能率82dBとされるLS3/5Aが6Wの真空管アンプで朗々と鳴り響いたときに思い知ることになる)。だから、次期パワーアンプ候補は駆動力にも定評があり、そして独特の世界を有しているものをということで、レヴィンソンと同じく半ば伝説となっているジェームス・ボンジョルノの手になるSon of Ampzilla2000をと考えていた。Son of Ampzilla2000の出力は定格で100W/8Ω、それにくらべるとencore power monoは60W/8Ω。Forteの75W/8Ωと比べても見劣りするように感じられた。そして、つなぐスピーカーも能率は低め。果たして十分にドライブできるのだろうか? としばらく逡巡し、それでも、その見た目と音に観念して、導入に至った。付属のケーブルも加工してもらい、その時点で使っていたSNOWWHITEのXLR出力とencore power monoのフィッシャー入力を直接つなげるようにしてもらった。

 その音には十分満足した。アイソレーショントランスを導入し、さらに満足を増したりもした。SNOWWHITEとencore power monoは大きさも似ていたし、SNOWWHITEのコストパフォーマンスの高さについては、今でも私の中の評価は高い。この組み合わせで、いろいろな方に聴いていただいたが、それなりの評価をしてもらえていたと思う。
 
 しかし、A氏からは、時たまこういわれていた。
 
「対になるCelloのプリがあったら、万難を排して手に入れるべき」

 確かにそうだろうなとは思っていた。そして、なんどかチャンスもあった。しかし、それらは中古とはいえ高価だったし、どのような環境で使われていたのかがわからない状況では購入したくなかった(導入したencore power monoについては、前オーナーはA氏のお客であり、彼はその使用状況も知っていた)。前述のとおり、SNOWWHITEとの組み合わせで奏でられる暖色系の音に満足も感じていたから、あえて、危険を冒してまでCelloのプリアンプを手に入れることはないと考えていた。
 
 しかし、好機というのはやってくるものだ。A氏のところでENCORE 1MΩの初期型。それもフォノイコライザ内蔵タイプの中古が出ることになったのだ。「時がくれば向こうから探しにくる」という言葉は誰が言ったのだっけ。そして、パワーアンプのときと同じく、いち早く、その情報を教えてくれ、実物を聴く機会も与えてもらえた。

 たしかに良いと思った。そして、今使っているプリアンプとフォノイコラザーを下取ってもらい、それに加えて、元箱、取扱説明書がないということで、私にも手が届く価格にしてもらえた。ここで誤解してほしくないのだが、元箱、取扱説明書がないからといっても、A氏はそれを補うだけの行動力と知識と情報網を持っていた。それにくわえて、私であればそれらがなくても対応できると判断した(後述するが実際対応できた)から、その価格で決定したわけだ。顔見知りだからという理由だけなら、そのようなことにはならなかったはずだ。
 
 そして、導入に至った。パワーアンプとの間のケーブルは、XLR-フィッシャーに改造したケーブルを元の状態であるフィッシャー-フィッシャーのケーブルにしてもらうことになった。しかし、その作業には時間がかかるため、しばらくはパワーアンプに変換プラグをつないでRCAケーブルで聴くこととなった。

 設置はA氏が行ってくれた。その場で聴いて、SNOWWHITEとは音のバランスが違うことがすぐにわかった。SNOWWHITEは中低域にゆるいアクセントを置いているものの基本的には上下にフラットだったのだと気がついた。ENCORE 1MΩはまず、高域の伸びが、そしてSNOWWHITEのアクセントよりも少し下の低域にアクセントが感じられる。そして、明らかに情報量が多い。SNOWWHITEは私の所有するプレイヤーの情報をすべて十分汲み取ってくれていると思っていたのだが、まだ不足があったということなのか。いや、でも考えてみれば、SNOWWHITEの定価315,000円、ENCORE 1MΩのフォノイコライザー内蔵型の発売当時(1988年)の値段は1,680,000円。20年という時間経過によって生じた技術革新と物価の上昇が互いを相殺するとしたら、単純に考えて5倍以上の価格差だ。これで改善される点がなかったとしたら、オーディオって何なんだという話になるだろう。
 
 RCA接続でのCelloのコンビが出す音は、本来の接続方法ではないにせよ、レヴィンソンが聴かせたかった音はこれなのかもしれないと思わせるものがあった。20年前のアンプということで、想定されるようなノスタルジックな音、中域~中低域が厚いサウンドとはまったく異なっている。誤解を恐れずに言うならば、先ほどの高域と低域の文章からわかるとおり、いわゆるドンシャリに近いバランスだ。しかし、いわゆるドンシャリが質を誤魔化すために行われる音作りなのに対し、このアンプでのそれは艶をもって伸びる高域と、広がる低域というものと、実際的な情報量の多さが両立している。それゆえ、ながら聴きをしようとしても、つい引き込まれてしまう。ただし、その高域になにか危うさというか、脆さみたいなものも感じられた。これ以上進むと割れてしまうというギリギリのところで踏みとどまっているような感覚。また低域についても、時に膨らみすぎたり、それでいて硬さを感じる瞬間もあった。それらにシステムとなじむまでに時間がかかるのかもしれないと自分を納得させようとしていたが苛立ちを感じることも多々あった。

 3、4日後、A氏からフィッシャーケーブルの加工が終わった旨の連絡があった。取りに伺うと、前ユーザが使用していたというXLR-フィッシャーのケーブルもお譲りいただくこととなった。自室に戻ると、早速配線にとりかかった。フィッシャーケーブルにはなれていないので、多少取り付けに手間取ったが、無事完了。期せずしてSACDプレイヤー-プリアンプ-パワーアンプ間がバランス接続となった。そして、いつもの位置で試聴を始めた。

「え?」

 本当に声に出してそういってしまった。前述の苛立ちにかかわる部分がまったくなくなっている。高域は艶やかに伸び、低域は芯を保ちながら広がる。もちろん、全体のバランスがすべて変わってしまったわけではないが、脆弱さや、生硬さのようなもの姿を消し、その代わりに赤い紅がほんのりと、薄っすらととさされたような、そんな気がする。きっとこれがレヴィンソンとコランジェロが聴かせようとした音だと納得したし、いまだにCelloのファンが多いことにも納得した。
 
 それから10日程度して、ある方から取扱説明書の電子ファイルをいただいた。それを元にフォノイコライザのゲインや負荷抵抗を行った。これで環境については完成といえるだろう。ご提供してくださった方には、この場を借りて改めて感謝を申し上げたい。本当にありがとうございました。

 個人的な思い出話はここまでにしよう。レビューにうつる。
 
 まず、パワーアンプであるencore power mono。

encore_power_mono.jpg

 出力は前述のとおり60W/8Ω。その名のとおり、モノラルアンプで一台の前面のフェイスパネルを除いたシャーシの大きさは、公称で高さ7.6cm、幅21.6cm、奥行き30.5cm。見るからに小さい。そして、外見的にはただの金属の箱なのだが、そのサイズ、もしくは縦横比によるものなのか、どことなくかわいげがある。発売当時の価格は125万円程度だったようだ。20年前だって、これよりも安く、大きさも立派で、出力数の大きいアンプは多数あったはずだ。にもかかわらず、これを購入した人たちは、やはりレヴィンソンのメーカーということを信用したのだろうし、それが作り出す音の対価として妥当と考えたのだろう。

 入力はフィッシャー1系統のみ。フィッシャーという言葉をずっと使ってきているが、ここで説明が必要だろう。フィッシャーはスイスの会社で、そのコネクタは小型・耐環境性に優れ、医療用品、F1カーなどに使用されるという。Celloでは、その3極コネクタをバランス接続用に使用している。当時使用されていたRCAケーブル、コネクタの信頼性の低さを考慮した結果なのだろうが、このままでは汎用性が低いため、本機にはフィッシャー-RCAの変換プラグが添付されている。また、このパワーアンプはブリッジ接続を行うことが出来る。そのためフィッシャーの出力ジャックも備えている。

 スピーカー出力は、昔の機械にありがちなネジ止め式となっており、バナナプラグなどは使用できない。裸線かYラグということになるが、線の接触を防ぐセパレータがついているので、Yラグについては外径の小さなものを使用する必要がある。

 音についてだが、基本的にはプリアンプに付き従う素直さがある。駆動力については、私が使用してるPENAUDIO CHARISMA+CHARAにおいては、まったく不足を感じていない。音には滑らかさと多少の温かみが感じられるのだが、それでいて反応の速さも備えている。A氏からシングルプッシュプルであることと、チョークトランスをつんでいることによるのだと説明を受けたが、私にはそれが何を示すのかがいまいちわからないでいる。小型で、緩やかさと俊敏さを両立しているパワーアンプだと思う。量よりも質を求めた結果のアンプといえるだろうか。このようなキャラクタなので、CHARISMA+CHARAにも似合っていると感じている。
 
 つぎにプリアンプであるENCORE 1MΩ。

encore_1mohm_p.jpg

 もともとはENCOREというプリアンプが存在していたのだが、こちらはその名のとおりInput Impedanceが1MΩとなり、これによりソース機器からの入力を安定させたのだという。
 
 まず目に付くのは、その特徴的なボリュームつまみだろう。このような形状のつまみは、ほとんどCello独自のものだといえるだろう。6つ並んだつまみは左からインプットソースの切り替え、モニタ出力の選択兼そのオンオフ、左ゲイン、右ゲイン、モード(ステレオ、Lのみ、Rのみ、リバースの4種類の出力モードの選択)、そして音量となっている。この中でもっとも特徴的なのが音量調節のつまみである。いわゆる可変抵抗を使用せず、抵抗値の異なる固定抵抗を順に並べたアッティネータとなっている。そのため回すと段階的にカチカチというクリック感と音をともなう。まるで金庫のダイアルのような感覚で、これを良しとするユーザも多い。このアッティネータの利点は、いわゆるギャングエラーが発生せず、音を絞っても左右の音量バラスが崩れないことと、金属接点であるため音質面で有利であることだという。ただし、微細な音量調整はできない。

 入力はフィッシャーによるバランスが1系統、RCAが8系統、そしてフォノが1系統(フォノを内蔵しないタイプでも、入力のみはあるようだ)。出力はTAPEがRCA2系統、プリがフィッシャーによるバランス1系統、RCAが2系統となっている。

 フォノについてはMC/MMという切り替えはなく、ゲイン、負荷抵抗の調整でカートリッジに対応させる形式となっている。調整は内部のディップスイッチで行うため、本体の上蓋をはずす必要がある。

 電源部は独立しており、それにネジ止めで6本のケーブルをつなげて、本体に電力を供給するという独自の形式をとっているため、この部分のケーブル変更はほぼ不可能。コンセントからの給電部については、ケーブル交換可能なインレットとなっている。

power_encore_1mohm.jpg

 音についてだが、前述のとおりだ。ノスタルジックな部分はまったくない。今聴いても、発売当時、この音を聴いたユーザが、その鮮烈さに驚いたであろうことが想像できる。情報量は多く、艶と輝きのある高域が伸び、低域にはある程度の柔らかさと広がりがある。音場は広がるが、それに頼って誤魔化すタイプではなく、定位、音像はしっかりとしていて、生々しささえ感じることがある。それゆえ、特にセッティングを変えたわけでないのに、スピーカーの存在が意識されなくなるときがある。全体の印象として「丸み」よりも、「研ぎ澄まされた」と言えるのだが、うっすらとした芳香もある。「Celloの音は麻薬的」という言葉を聞いたとき、マリファナ? それともLSD? とぼんやりと考えていたが、こんな表現が許されるとしたら、この音はアンフェタミンだ。

 内蔵のフォノイコライザーについてだが、特に奢った作りの音であるとか、極端な特徴をもっているというタイプのものではない。むしろ、真面目に基本に忠実に作られたフォノイコライザーで、明快さがある。もちろん情報量も十分だ。このようなフォノイコライザーだからこそ、Gliderのような現代的なカートリッジにも対応出来ているのだと思う。そして、そこで救い上げられた音は他のソースを同じく、上述の傾向を帯びてパワーアンプに送られるという次第だ。
 
 このプリアンプとパワーアンプのコンビーネーションが優れているなんてことは、あえて私が言う必要はないだろう。組でつかうことを考えて作成されたのだろうから、当たり前のことだし、先達の人々がすでに語っているだろうから。そこで逆に「もし」という話をしてみよう。

「もし、このアンプが何らかの理由で失われた、もしくはこのアンプと出会わなかったら、現行のアンプで何を選ぶか?」

 その答えは、現状での想像でしかないが「Ambrosia2000とAmpzilla2000」となる。いや、もちろん、Ampzillaの組み合わせがCelloと似ているなんてことはない。しかし、現行機器で、同じくらいに個性を感じさせるアンプというと、この組み合わせぐらいしか浮かばない。私はアンプに対しては、無色透明さや、純粋無垢な正確さは求めておらず、むしろ作り手の個性を想像させるものを選びたいと思っている。それゆえのAmpzillaであり、Celloなのである。

投稿者 黒川鍵司 : 2009年3月 7日 23:52

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.ashrization.com/x/admin/mt-tb.cgi/576

コメント

ん~、いい読み物を読んだ気分です。w
試聴希望者が増えそうですね。(^^

投稿者 rabbitmoon : 2009年3月 8日 18:23

 長い文章にお付き合いありがとうございます。
 試聴希望の方? いらっしゃるのかな? いらっしゃったらこちらにレスくださいませ、検討させていただきます。人数によっては抽選となりますけれども。

投稿者 黒川鍵司 : 2009年3月 9日 19:57

コメントする