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2009年3月28日

M・バタフライ

 クローネンバーグの映画に「エム・バタフライ」という作品がある。未だにDVD化されていないことからも、人気のなさが伺えるだろう。グロテスクな特殊効果シーンもなく、彼の作品としては地味だ。もともと実話に基づく戯曲を映画化したわけだから、派手なシーンなど出てくるわけもないのだ。それでも、私はこの作品が気に入っている。

 内容を語るのはルール違反だと思うが、ラストのことぐらいは書いてもいいだろう。ジェレミー・アイアンズ演じるルネ・ガリマールが白塗りの顔に、安っぽい黒髪のカツラを身に着ける。どう考えたってかっこいい姿じゃないし、普通に見たら笑ってしまう。しかし、このシーンにあるのは滑稽さではなく、悲愴さで、「私はルネ・ガリマール、またの名を蝶々夫人」と宣言するに至って、その悲愴さ頂点に達する。

 言うまでもなく、この映画ではプッチーニのオペラ「蝶々夫人」が伏線となっている。「蝶々夫人」は、西洋人のピンカートンの嘘を信じ、「ある晴れた日に」彼が帰ってくることを信じ続けた蝶々が、ピンカートンの裏切りの果てに、二人の間に生まれた子を残して自害するという筋書きになっている。ガリマールが自らを蝶々だと宣言した瞬間、この筋書きが逆転していたことを思い知るわけだ。「バタフライ」という女性を求め続けた彼が、実は裏切られ、自害に果てる「蝶々」だったということに。

 ウィキペディアの「蝶々夫人」の項を読むと、実際のモデルは誰なのかという話が出てくる。有力視されるのはグラバー邸で知られるトーマス・ブレーク・グラバーの妻であったツルだという。
これは彼女が長崎の武士の出身であることや、「蝶」の紋付をこのんで着用し「蝶々さん」と呼ばれたことに由来する
とのことだ。しかし、もちろんのことながら、ツルは自害などしてない。同項によれば「夫に裏切られて自殺をした女性の記録は皆無」ということだから、やはり「蝶々夫人」は西欧人にとっての幻の東洋女性像だったということになるだろうか。

 そして 「蝶々夫人」では上述のとおり、ピンカートンと蝶々の間に男の子が生まれているわけだが、グラバーとツルの間にも男の子がいた。英名トーマス・アルバート・グラバー、日本名、倉場富三郎。以前紹介したグラバー図譜の編纂者だ。長崎の実業界にて活躍した人物だが、第二次大戦時は混血であったがゆえに官憲のきびしい監視下にあったという。そして、終戦直後、彼は自殺してしまう。

 現実の世界では、「蝶々夫人」ではなく、その息子が自ら命を絶つこととなった。

投稿者 黒川鍵司 : 2009年3月28日 12:11

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コメント

面白そうですね。今度、機会があったら観てみましょう。

投稿者 黒木 : 2009年3月28日 17:56

 あら、珍しい人がコメントを、と思ったのですが、考えてみたら、「エム・バタフライ」はフランスがらみの映画でありました。ちなみにモデルとなった事件も、本当にフランスのこと。卑近ですが、こちらが分かりやすいかと。
http://www.fujitv.co.jp/unb/contents/430/p430_1.html

投稿者 黒川鍵司 : 2009年3月28日 18:18

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