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2009年3月21日
marantzというブランド
所有することとなったアンプについて書いた記事で、マーク・レヴィンソンという人物と、彼が主催した会社の変遷を書いたところ好評で、他のブランドについても書いて欲しいという要望をいただいた。そこで、自分が使用した事があるものでと考え、マランツを取り上げることとした。その後、パワーアンプの設計を担当するシドニー・スミスを迎え、今も名機とされる#7というプリアンプ、そして、その相棒としての#9が開発される。これらのアンプは、その後、レプリカモデルが発売されるほどの人気を持ち、特に#7は、今も、そのオリジナルに熱中するユーザがいるほどである。そして、これらは、その後のアンプのデザイン、機能の実装面に大きな影響を与えるモデルとさえなった。
このように隆盛を誇ったマランツだが、FMチューナーの開発において資金難に陥り、60年年代半ばにして、映画のワイド・スクリーンの一形式を開発した、スーパースコープ社に売却されてしまう。この時点でソウル・バーナード・マランツは、マランツというブランドに関わらなくなってしまった。これがマランツブランドの最初の断絶だ。
スパースコープ社では、それまでの真空管アンプに代わって、トランジスタによるアンプが作成されていった。この時代にはCelloの記事でも名前を挙げた、ジェームズ・ボンジョルノが設計に関わっていたりもした。また、スパースコープ時代のマランツブランドは拡大拡張を目指しており、スピーカーをつくってみたり、普及価格帯の製品を日本のスタンダード工業に作成させるようになったりしている。その後、スタンダード工業はマランツ製品のほとんどの設計・開発を行うようになる。日本国内では、ブランドとしてはアメリカ、製品は国産というねじれが起きていたわけだ。なお、スタンダード工業は、1975年に日本マランツと社名を変更している。
そうこうするうちに、スーパースコープ社も資金難に直面する。そして、マランツブランドは北米でのそれを残して、再度、売却されることとなった。売却先はオランダのフィリップス。マランツというブランドはアメリカと、ヨーロッパに分割されたわけだ。そして日本マランツもフィリップス傘下となった。
フィリップスは言うまでも無いが、高い技術力を誇る企業であり、CD、LDなどの開発、規格提唱元となった企業である。そこで、マランツにプレイヤーの技術が流入することとなった。音決めの基準となるスピーカーも、ヨーロッパ製品が使われるようになり、現在のヨーロッパトーンの音と外見のマランツはここで作られたものだと言えるだろう。これが二度目の断絶だ。そして、1990年の暮れになって、北米のマランツブランドもフィリップスに買収されることとなった。これでマランツブランドは完全にアメリカのものではなくなった。
それから数年後、マランツブランドの所有権は再び海を渡ることとなった。今度の買収先は、いや、実際的には買収ではなく、独立だ。日本マランツがフィリップスから、マランツに関するすべての権利を買い取ったのである。これで、スパースコープ時代途中から発生していた、ブランド所有者と生産者が異なるというねじれが収束したわけだ。しかし、これで安定とならないのが、時代というものなのか、次は純日本産オーディオブランドであるデノンとの経営統合となる。ディーアンドエムホールディングスという会社が作られ、マランツブランドの製品の企画・開発はこの会社のものとなり、販売については、その子会社となるマランツコンシューマーマーケティングが行うこととなった。そうして現在に至る。
以上が、マランツブランドの簡略な変遷である。
数奇なブランドというのが、私の感想だ。二度の大きな断絶を経て、技術的、もしくは音質、外見の傾向における連続性が、ほぼ失われている。にもかかわらず、マランツというブランド名は消え去らず、その外面的特長の一つである「シャンパンゴールド」という色も引き継がれ、また、長きに渡って一定の評価を得るブランドであり続けている。これは「奇蹟的」といっていいことなのかもしれない。
なお、上述のディーアンドエムホールディングスは、アメリカのオーディオブランド「マッキントッシュ」も傘下に収めている。ソウル・バーナード・マランツが生み出したブランドと、その終生のライバルと言われたマッキントッシュが、同じ親会社を持つなどということを、誰が想像しえただろう。時代の流れ、うねりというものの凄まじさを思い知らされる事実である。
投稿者 黒川鍵司 : 2009年3月21日 22:13
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コメント
お久しぶりです。
フィリップス傘下時代のモノラルパワーアンプDMA-1をいまだに愛用しています。
最近のオーディオメーカーの消滅、ブランドの巨大資本への吸収は、かつての欧米の自動車産業を思わせます。
かつてはリンカーン、キャデラック、シボレー等はすべて独立したメーカーでしたが、フォードやGMの傘下に吸収され、ブランド化しました。フランスのルノーやイタリアのフィアットも同様に他のメーカーを傘下におさめ、巨大化しました。
しかしイギリスのように、統合(ブリティッシュ・レイランド)→国営化→分割民営化→海外資本傘下へ売却の道をたどる場合もあります。
伝統あるオーディオブランドの将来はどうなるのでしょうか?
投稿者 SHIDA : 2009年3月22日 11:41
こちらこそ、お久しぶりです。その節は、さまざまなヘッドホンをお聴かせいただきありがとうございました。
オーディオ、車、いや、いまとなってはすべての企業が買収、解体の対象となりえ、それをめぐって巨額が動くマネーゲームの対象になりえるものとなってしまっています。それが加速するにつれ、解体のスピードも早くなり、一つのブランドを守り続けることは困難極まりなくなっています。確かにそれに対して、一抹の不安や寂しさを感じるのですが、翻って考えてみると、そこで生まれた利益の一部が巡り巡って、自分の生活の利益になっている場合もありえて、一概にすべてを否定できない状態にあることも事実です。
おそらく、こういう時代のうねりみたいなものに抗う手段は無いのだと思います。あのJBLでさえ、ハーマンインターナショナル傘下なのですし。今回取り上げたマランツやタンノイのように一旦は買収されても独立を再び勝ち取るという例は無いわけではないですが、そこには様々な人々の苦難と辛抱、そして幸運があったのだと思います。
結局、私たちにできることは、気に入った、もしくは思い入れのある機器を使い続けることだけでしょう。たとえ、修理が困難になったとしても、なんとかして、それを使い続けることで、そのメーカー、ブランドが存在した証を保ち続けることしか、できることはないのだと思っています。
投稿者 黒川鍵司 : 2009年3月22日 13:06
「気に入った、もしくは思い入れのある機器を使い続けることだけ」
仰るとおりですね。
最近始めたサイトのせいで、オーディオブランドで検索する機会が多いのですが、結局、そのブランドの製品を愛用した方がいらっしゃるかどうか、が情報が出て来るかの分かれ道。思わぬブランドでいいトピックスに出会うことがあります。
投稿者 SHIDA : 2009年3月22日 14:28
サイト見させていただきました。すばらしい資料性ですね。いままで、本邦でヘッドホンに関して、SHIDAさんが作られたようなサイトがなかったことが不思議に思えてきました。確かに、オーディオの世界ではヘッドホンは最近になって注目されるようになった分野だったということもあるのでしょうが、実用一辺倒なサイトばかりで、資料的として通用するページがなかったのはユーザ側の問題なのかもしれないですね。
実は、「ユーザ側の」という部分に今注目しているのです。ある製品が「名機」となるのは、もちろん作り手の力も大きいわけですが、ユーザ側がどれだけ、それに思い入れ出来るのかが鍵なんだと思うのです。昨今は、そのような思い入れをマーケティング的に煽ることが多くなりましたが、煽られた思い入れの無意味さに、どこかに気がついているユーザも多いのではないかと思っていたりしまして。次回の記事でそのあたりに触れられたら、と思っております。
投稿者 黒川鍵司 : 2009年3月22日 19:49

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